転生とその代償

元いた世界を観測すること4日。原因となった事件は友人たちによって解決され私達の葬儀が終わり、その他色々あったがどうにか心の整理がついた。

「聖一」

今私たちは、死ぬ前に向かおうとしていた東都理科大市ヶ谷キャンパスこと、神楽坂キャンパス10号館の誰もいない学生実験室にいた。

「聖一」

呼びかけても反応がない。思考の海にいるようだ。まあわからなくはない。

これまでも平穏とはだいぶ程遠いアグレッシブな人生をすごしてきたが、私達自身が死を受け入れるにはまだ時間が足りない。
ルキ(仮称)の前では話をすすめるために冷静を努めていたが、私だって受け止めきれていない。
しかし、だからこそ決めたことがあった。

「聖一!」
「え?あ、凛。」
「あ、凛。じゃないわよ。呼ばれたら返事くらいしてよ!」
「ごめんごめん。ちょっと考え事をさ。」
「私、決めたわ」
「えっ」
「私、決めたわ」
「いやもう一度言えという意味じゃない」 「私決めたわ。細かな条件は詰めないと行けないけど、あのルキの転生させるという提案を呑むわ。」
「・・・本気ほんきで?」
本気マジで」
「その心は?」
「私たちはまだ死を受け止めきれていない。生ある世界を堪能しきっていない。だからよ。」
「そうはいうけれど、ルキの言ったこと、信用できるか?」
「信用するかどうかは自分で判断する、死ぬ前と変わりはしないわ。」

聖一がうんうんとうなりながらしばらくぐるぐる歩いていたが、やがて
「わかった。お前に任せるさ。」
と言った。

「そう。ルキ!見てるんでしょ、もういいから出てきなさい。」

そう言うと私達の周りの風景が変わり、実験室から霧で満ちた空間に戻る。

「一週間くらいはかかるかと思ったんだが4日とはねぇ。それで我々の償いとしては、転生させればいいのかな?」
「そう急がない。幾つか確認することがあるわ。」
「なるほど。では1つ目は?」
「1つ目。転生先の世界は選べるの?」
「選べない。が君たちが知っている小説の世界にはなる。」

なるほど。それは朗報だ。何も知らない世界に放りだされることがないとわかって一安心だ。

「2つ目、転生先の世界での私達の能力は?選ぶ世界によっては生きるために能力が必要なこともあるでしょ?」
「それについては君たちの居た世界と同じくらいの地位を得られる程度の能力を本人の特質に合わせて自動的に付与される。家庭環境もだ。この点は干渉できない。」
「3つ目。私達2人が揃って同じ世界に転生できるのかしら?」
「難しいができる」
「4つ目。では同じ世界で私たちはどのくらい経てば再会できるのかしら?」
「それは非常に難しい。そもそも我々の視点では平行世界は観測できているのだから、その時点で世界が確定している。そこに君たちの存在を入れるためには確定していない部分に割り込むしかない。」
「シュレーディンガーの猫みたいね。続けて。」
「だから同時刻に産まれてかつ産まれてすぐ知り合うのは今の観測ではできない。できないことが確定しているからね。無理やり変えるためには世界に干渉する力が必要で残念ながら私はその力を持たない。また生まれてすぐお互いを探そうとするのも観測し確定している未来に反する。このように二人揃って転生させるのは難しい。」
「つまり?」
「二人揃って転生するためには、お互いについての記憶を一時的に失う必要がある。無論転生先の世界で再び出逢えば記憶の封印は解かれる。」
「ちょっとまて、記憶を失うとは具体的にはどういう状態なんだ?安易な記憶操作は人格が壊れるぞ?」
「お互いについて考えようとすると、意識がむりやりそらされる。だから忘れてはいけない何かを忘れているような感覚になる」
「5つ目。転生先の世界で転生する時間軸はどうなるの?」
「君たちはもともと大きな力を持っていたから転生先でも大きな力を得る。2つ目の質問で答えたとおりだ。大きな力を持つものにはそれ相応の役割が世界から求められる。つまりその力を発揮するのにふさわしい時間に産まれる。」

なるほど。二人揃っておなじ世界に転生しないという選択肢はありえないから、必然的に転生の代償として記憶の一部が封印されるわけだ。

「凛、どうする?」
「私は転生するわ。たとえ転生の代償に記憶の一部を封じられても、私達ならきっと再会できると思うの。」
「そうだな。」

私達の絆がたかが転生ごときに断ち切られるわけがないじゃないですか。

その傲慢を武器に転生先の世界を生きることを決めた。


シュレーディンガーの猫についてはまあ化学科の端くれなもんで物理化学とか無機化学の授業でも習うんですが、
それよりは「さくら荘のペットな彼女」でおなじみ鴨志田一先生の『青春ブタ野郎シリーズ』の影響が強いです。

しっかし油断すると会話文が多くなるのどうにかならないかなぁ(文才がない)