仮拠点から探索してみよう

夜11:00、校内をうろつく影が2つあった。影は嘆きのマートルのトイレへと向かっている。

「そこでこそこそしてるのはだ〜あれ?って、リンとサンクじゃない、こんばんは。」
「久しぶり、マートル。」
「こんなに夜遅く出歩いて校則違反じゃないの?」
「バレなければ問題ない。さっそく開けるか。」
「あら、秘密の部屋にでも行くのかしら?」
「そう。オフレコな。」

と聖一がいうとぷんぷんしながらトイレの個室に飛んでいく。

蛇語で入り口を開けると大きなパイプがあった。

「とりあえずここからキレイにしますか。」
「だな。」

「「スコージファイ! ー清めよ!」」

何度かに分けて呪文をかけるとようやくキレイになる。お次は・・・。

「なんでハシゴをかけるの、それも縄梯子・・・。」
「念には念をってさ。」

梯子をかけておよそ地下5階の高さまで下に降りるとそこは・・・。

「骨の海か、あまり嬉しくないな。」
「どうする?この骨。全部のける?」
「それしかないな。と言っても消失呪文はまだ使えないから、どこかの通路に入れてしまうしかできないわけだが。」
「秘密の部屋への通路はこれかな?なんかものすごく崩れてるけど。」
「そういえば二次原作ではアリスは別の入り口から入ってきてたよな。」
「『隠し出入り口は学校の裏手側にある、崖岩に隠されていた。岩が重なり合うように隠されていた場所には蛇の彫刻が施されている。』だったっけ。とりあえず、そっちは後回しにしてまずは秘密の部屋に行きましょう。」

通路は崩れていて、瓦礫が散乱して通路を塞いでいた。
どうやらハリー達が脱出した後さらに崩れたようで、まずはこの修理をしないといけないらしい。

「レパロ ー直せ」
「いや、範囲が広すぎてだめだろ。壊れた時間も昔すぎる。」
「駄目元だったけど、やっぱりだめか。」
「ああ、エントロピー増大則に反するから必要エネルギーが浮遊や攻撃魔法に比べて難易度が高いんだ。ついでに言うと粉々だから再結合させる原子数もほぼ無限に近いな。」
「ならどうするのよ?」

「セメントの主成分は、けい酸三カルシウム、けい酸二カルシウム、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウムだ。つまり?」
「変身術で元素を変容させろと?」
「二人でやればできるだろ。気をつけるのはけい酸三カルシウムとけい酸二カルシウムとその他の質量比が56:24:10ということだ。これを間違えると固まらない。ついでにこのバジリスクの抜け殻にも材料になってもらおう。」
「それと粗骨材になるこの瓦礫はもっと砕かないといけないね。」
「頼んだ。」

「アグアメンティ ー水よ、レダクト ー粉々に」

湿らせてから粉々に砕いて、さらに3秒カウントダウンしたところで、その一部をセメントに変える。
それとは別に一部は鉄に変身させて砕けた部分に鉄筋としてはめる。
さらに、セメントと粗骨材である瓦礫を水を加えつつ混ぜ、浮遊術と物体操作術で壊れたところにはめこむ。
最後に少し残ってる瓦礫を木の板に変身させて型にすれば作業完了だ。

40分もかかったが。

「24時間もあれば固まるだろうから、とりあえずここはこれでいいか。」
「聖一、お掃除忘れてる。」

お掃除をすませて先へ進むと扉があったので蛇語であけると大きなホールがあり、傍にお墓があった。

「これが2次原作で作られたバジリスクのお墓か。
お墓を荒らすのはしたくないんだけど、バジリスクの毒は欲しいのよね、いくら後でアリスから研究結果を貰えるようにしたとはいえ。」
「まあ、拝んでから少しだけ分けてもらおう。」

なんとなく仏教式に拝んでから積み上げられた石の隙間から中に入ってバジリスクの毒をクリスタルガラスの小瓶にとる。

気がつけば1:00だ。検知不可能拡大呪文をかけたバッグからベッドを取り出し、さっさと寝る。

人形を呼び出してサンドイッチを持ってきてもらい沸かしたお湯で入れた紅茶と共に食べて朝食を済ませると、昨日は後回しにしたアリスが入ってきた入り口を探す。
四方位呪文で方向のおおよそのあたりをつけ、あとは道を観察してすすむ。最近通ったならば、蜘蛛の巣がそこだけないとか、足跡とかそういうものを見つけられるはずだ。

ここまでは整地と清掃しながら歩いてきているので迷いようもなかったが、ここからは迷うといけないので、25メートル間隔で明かりをつける。あらかじめ確保しておいた木の棒に火をつけ、壁に穴を開けて松明設置完了だ。

分岐には道標をたてる。
設置に手間取ったり迷ったりしたが、1時間後、どうにか学校の裏手、競技場の方の出入り口にたどり着いた。確かに、蛇の彫刻が施されている。

「へえ、こんなところに出入り口があったのか、何回か来てるはずなんだけど気がつかなかった。」
「だな、もしかしたら条件魔法のようなものがかかっているのかもしれないな。」
「条件魔法?」
「条件魔法、情報空間のデータをタブラせて、条件によってその優先権を書き換えることで実体空間に存在するものが変わるように見える魔法だ。条件を満たさない場合は存在を無くされた部分を埋めるようにその部分の実体空間の座標面がひどく歪む。検知不能系魔法に似ているかもな。」
「タブラせるなんて出来るの?実体空間では同じ座標に2つ以上の物体の存在は許されないけど。」
「許される。これを利用すると、例えば見かけの自分の位置と実際の自分の位置をずらす事ができる。」
「なるほどね。検知不能系魔法に似ているというのは?」
「よくあれは空間を捻じ曲げて拡張しているように説明されるけど厳密には違って、別の情報空間を内容量に応じて定義して情報空間同士をリンクさせてるんだ。もちろん呪文がかかる前の容器の出し入れ口の大きさを超える物が出入りするときは実体実体空間が歪むからあながち間違ってはいないが。」
「実体空間の歪みというのは、各座標の情報空間の単位ベクトルと実体空間のそれが一致しない状態。ないし存在した座標が消滅した状態。もしくは存在しない座標が追加されることと思っていいの?」
「ま、そんな感じだろ、今解ってる範囲ではな。さて、戻るか。」

来た道に建てた道標へ、学校の裏手の出入り口の方向を書き加えたり、清掃しつつ仮拠点に戻る。本当に魔法って便利だ、魔法なしじゃ1週間はかかったに違いない。