ルーピン先生の初授業

闇の魔術に対する防衛術とは、闇の魔術が実際に使われるような場面で効果的に、かつ効率的に自分の身を守るかを教える授業である。
おもに有用な魔法の習得と適切な状況判断力、そして速く正確に魔法式を組み上げることを学ぶ事がメインとなる。
・・・そう、そのはずの学問である。

ところがこの2年間それが果たされているとは言い難かった。

一昨年はおっかなびっくり教師、去年は人材の枯渇を象徴するなにかが教鞭を握っていた。
何故か毎年担当教師が変わる授業で、ハリー曰く5年連続だそうだ。ところが実際はもっと長いらしいく、少なくとも15年連続である。
やがて時間になり、教室へと入ってきたルーピン先生は以前見たときと同じ年季の入った服装をしていた。

「みんな、はじめまして。これからこの学科を担当するリーマス・ルーピンだ。期待を裏切らないように精一杯やっていくのでよろしく」

初回の授業は原作と同じくポガートだった。
教室を出て職員室へと向かう。
途中ピーブスと出くわしたり職員室に着いてすぐスネイプ先生と一騒動あったが授業が始まる。

職員室奥の古い洋箪笥がガタガタいったり、飛び跳ねたりしてる。

「ああ、怖がる必要はない、中にまね妖怪ーーポガートが入っているんだ。さて、最初の質問、ポガートとはなにか、説明できるものは?ああ、ハーマイオニーグレンジャー。」
「はい。まね妖怪は形態模写妖怪と言われていて、相手が一番恐れるものに姿を変える生き物です。
人が目撃するときは常に何かに変身しているためその真の姿を見たことのあるものはありません。
マグルが発明した塩銀写真では写真を見る者の恐れる姿に見えます。
また、同じくマグルが発明したデシタルカメラで昨年撮影を試みたところ、データは変わっていないのに見える姿が異なるという状態となりました。
いかにして人間の精神に侵入しているのかという点で現在日本との共同研究の対象となっている生物でもあります。
生態は暗くて狭いところを好みます。」
「まさかそこまで知っているとは思わなかった、デジタルデータからの解析の論文が出たのは去年だったと思うが。
というわけでそのまね妖怪を追い払う術を身につけよう。
さっきも説明してくれた通り、対峙する人の怖いものに変身する。この点で私達はすでに有利な立場ににいるわけだが、2つ目の質問、なぜ有利なのでしょうか?ハリー。」
「えーとーー僕たち、大人数でいるのでどのような姿に変身すればいいのかわからない?」
「正解。2人以上、対峙する人数が多いほど、混乱を誘うことができる。
さて、まね妖怪追放に使う呪文は『リディクラス ーばかばかしい』だ。まずは杖なしで、発音は正確に。」

『リディクラス!』

教室中を呪文を暗唱する声で満たされ、ワンワンと反響する。

「うん、それでいい。
それでこの呪文だか、真にその力を発揮するためには笑いが必要だ。
ああ、そこ、ばかばかしいとか言わない。ばかばかしい、滑稽だと思うことが大事なんだ。」

というわけで一人一人対峙することになった。
ネビルがスネイプ先生に化けたまね妖怪の姿をネビルの叔母さんの服装に変えて笑いをとった。

「じゃあ次はミス・リン!」

私の番になった。私に怖いものがないなんてことはないが、何が一番なのかは気になる。

パチン!

それはこの世界に来るきっかけとなったあの爆発事故だった。目の前で聖一が死んでいく場面だ。

「・・・許さない・・・。」
「え?リン?ちょっと?」
「・・・まね妖怪ごときが聖一になり変わるなんて許さない!
『グレイシアベントゥス!(Glacier ventus)ー氷河の風よ!、コモーティオネ! (Commotione)ー解体せよ!』」

1つ目の呪文で氷点下20度の風が吹き荒れ、雪が積もり、火が消えた。2つ目の呪文でまね妖怪の変身が解除され、白い球体になる。 同時に吹雪がまね妖怪を襲い、箪笥の中に吹き飛ばされて雪と一緒に詰め込まれた。

ルーピン先生が止めに入ろうとしたところで凛は我に帰った。

「はっ!なんていうことを・・・。先生すみませんでした。『パック! ー詰めろ!、ムードゥス! ー整理整頓!』」

高いところで2mもあった雪が一瞬で凛が持っていたカバンに吸い込まれ、散らばって落ちてる書類が整理整頓される。

「いや、まあ、後で残るように。次はパーバティー!」

次々と生徒たちが対峙する。最後にネビルが再び対峙しまね妖怪を追放した。

なおこれ以降翌年の大イベントまで凛は、陰でちらほら雪の女王などと呼ばれることとなる。

「お待たせ。キャラメルチョコレートだ。気分が良くなるよ」

テーブルの上に出されたカップからはキャラメルとチョコレートの香りが立ち昇り鼻腔を擽る。
カップを手にとって一口飲んでみるとキャラメルの甘さとチョコレートの苦さが良い具合に合わさり絶妙な味を出していた。

「美味しいですね。これは先生の手作りですか?」
「そうだよ。僕が自信を持って作れる数少ないものでね。」

ルーピン先生は笑いながら言った後、自分も飲み始める。

しばらくは無言でキャラメルチョコレートを飲む時間が続くが、ふいにルーピン先生が口を開いた。

「今日の授業はすまなかったね、炎に包まれていたのはサンクチュアリ・トンクスでいいのかな?」
「そうであるともそうでないとも言えますね。こちらこそ取り乱してすみません。」
「ところで君はあの時炎の中の彼をサンク、ではなく他の呼び方をしていたよね?」
「それが先ほどそうであるともそうでないとも言える、といった理由です。それ以上その件について話すのは大変申し訳ありませんがお断りさせていただきます。ちなみにこの件をサンクに問いただすのも無意味です。」
「まあ、なにか事情があるとはマクゴナガル先生から聞いてるよ。まあ、なんにせよトラウマのような記憶を引っ張りだしてしまったわけだ。改めて謝罪させてほしい。」
「あれはトラウマではなく、教訓とか決意、喪失感という類のものです。まああのシーンはたまに夢に見るので先生が気になさることはありません。せっかくまともな闇の魔術に対する防衛術が来たんですから。」
「そう言ってもらえると助かるよ。でその闇の魔術に対する防衛術の先生として君に2つ聞きたいことがあるんだけどね、まずまね妖怪に対して使った呪文の2つ目はなんだい?これまで見たことも聞いたこともなくてね。」
「あれは冬に日本へ行った時に開発した呪文です。日本では魔法使用に年齢制限は害悪となるという方針のもと魔法教育が展開されていますので。」

「詳しく聞かせてもらえるかな?」
「はい。通常まね妖怪に対するには『リディクラス』の呪文を用います。これはまね妖怪の存在意義が人を怖がらせることにあり、それが果たせなくなった時点で死ぬという現象を利用しまね妖怪に怖がるものを錯覚させることでまね妖怪を変身させられるというものです。
ところで授業の時にハーマイオニーが指摘した通りマグルのデジタルカメラで撮影したところ撮影データは変わらないものの見る人によって見えるものが異なるという結果が先日の合同研究で明らかになりました。
以下デジカメと略しますが、デジカメは実体空間を写し出すのに対し私達人間の目には情報空間を介してうつります。
基本的に実体空間と情報空間は一致しているので普段は意識できません。
まね妖怪の場合では変身術とは異なり実体空間はそのまま、情報空間を書き換えることで相手の怖れるものに変身しているのでどちらかというと幻術と呼ぶべきですが、とにかくそれによってデジカメ写真のデータは変わらないのに見えるものが異なるということが起こるわけです。
先ほどの『コモーティオネ』は解体魔法で、対象の情報空間と、それに加えて情報空間と実体空間の2者を不一致させているパスをクリアするものです。
この魔法の難点を挙げると、この魔法には実体空間における座標がわかっている必要があることです。つまりまね妖怪の場合、たまたま実体空間と情報空間での座標が一致しているため術を作用させる対象座標を決定できました。
一方で例えば日本に伝わる魔法である『纒衣』のように座標がずれている場合は使えないということと、
まね妖怪に使う場合変身解除できても根本解決にはなっていない、ということです。」
「なるほど。しかし何故論文が出るより先に結果を知っていたんだい?」
「日本に、共同研究に加わっている友人がいるんです。合同研究が行き詰まってたみたいなので適当にネタ振りしたらいつの間にか日英合同研究の研究対象になっていたわけですが、まあ、というわけで発案者がデータを持っていてもおかしくないですよね?」
「なるほど、大変勉強になったよ。ありがとう。そんな新しい概念についてそこまで理解してさらに新たな魔法を開発するとはすごいね。」
「そう言っていただけると光栄です。ですがまだこの魔法は未完成です。できれば先生とそれからダンブルドア先生の前で再び実践して改良したいのですが先生からダンブルドア先生に取り計らってはもらえませんか?」
「わかった、頼んでおくよ。では、2つ目だが、その後ろの人形たちは君が操ってるのかい?」

有希と尚也はババ抜き、かなちゃんは酸塩基中和滴定実験なんか始めてる。どっからそんなもん持ってきたんだ・・・。

「いいえ。ていうか、かなちゃん何やってるのよ。」
「酸塩基中和滴定実験だよ〜。」
「こんなところでやったら危ないでしょうに。」
「大丈夫だよ、人畜無害な最終決戦兵器作成が目標だもん!」
「んなもん作んなくていいから、有希と尚也も止めてよ。」
「無理。」
「うわ、断言するし・・・。」
「・・・では生きてる、ということかい?」
「厳密には違いますがだいたい合ってます。既にダンブルドア先生やマクゴナガル先生からお聞きではないかと思うのですが。」
「うん。ある程度のことはフリットウィック先生やマクゴナガル先生から聞いているよ。でも僕としては何か・・・そう、革新的な魔法か技術が使われているんじゃないかって思っているんだ。さっき聞いた解体魔法のように。」
「せっかくのご期待に添えなくて心苦しいのですがすべて既存技術の組み合わせです。もっとも人形を作る、という強い意志がこれまで思いつかなかったような技術の組み合わせを生んだわけですが。」
「ふーん、僕の思い過ごしか。ああ、もうこんな時間だ。」
「そうですね、そろそろ寮に戻ろうと思います。3人とも片ずけ手伝って。」

有希を通じて先生を見ていたが、あまり納得しているようではなかった。アリスの闇の魔術に対する防衛術の授業は明日らしいから合わせて判断するのだろう。

「ほう、解体魔法と彼女は言ったのかね?」
「ええ、なんでも日本に、日英合同研究に加わっている知り合いがいるとかで。自作魔法だと言っていました。」
「リーマス、その論文を読んだかね?」
「いいえ、まだタイトルしか。」
「わしも昨日読み終えたばかりなんじゃが、まね妖怪の変身の原理についてそこまで詳しい明快な説明はなされてなかった。」
「どういうことですか?」
「そもそも実体空間と情報空間という考え方は条件魔法という東洋ではメジャーな魔法の原理の説明として考え出されたもので提唱されたのは5年前。まだその理論は発展途上で、合同研究のメンバーでもそこまでハッキリと理解できているか怪しいものじゃ。」
「しかし彼女の原理説明によれば対象の情報空間をクリアし、同時にパスを切るということでした。これ自体は日本の呪符を用いた術式にあったと思うのですが?」
「だが、そうやすやすと杖の術に移植できるじゃろうか。まあ、まあ、彼女に今度あったら、まね妖怪を捕まえておくから近いうちに具体的な日取りを伝えると伝えてもらえんかの?」
「分かりました。」
「さて、それよりもより注意を要するのはアリスとリンの人形たちじゃ。何か新しい情報はあったかね?」
「いいえ、フリットウィック先生やマクゴナガル先生、ダンブルドア校長が聞いたこととあまり変わらないかと。しかし、それほどまで彼女たちを警戒する必要があるのですか?確かに他の生徒と比べて色々飛び抜けてはいます。しかしながら、校長が言うほど危険とは思えませんが?」
「わしとて生徒を疑うようなことはしたくないが、しかし彼女達が他の生徒と比べていささか特異であるというのも事実じゃ。
それにあの人形については十分注意を払う必要がある。
本人達は既存の魔法を組み合わせた特別な術式を使用していると言っていたが、そのぐらいであの完成度の人形を作るのは無理じゃ。
もしそれが可能ならば過去多くの魔法使いが実現させているじゃろう。
少なくとも魂か生命に関する高度な魔法が使われていることは間違いないと考えておる。」
「魂に関する魔法もピンキリですが、秘匿度は高いはず。
たしかにリンの恋人のサンクは探偵として有名ですが彼女たちが都合よく必要な文献と研究場所を見つけられるものでしょうか?」
「わしも最初はそう思っておったが、可能性だけを突き詰めるならばいくらでも選択肢は存在するのじゃ。
とにかく今は情報が少なすぎる。ルーピン先生、マクゴナガル先生、彼女たちを監視してくれ。
彼女たちは聡いし感覚も鋭いから監視してることにはすぐに気がつかれるだろうから気が向いたとき程度で構わん。」
「分かりました。しかし、貴方ほどの方が彼女達をそこまで警戒する理由はなんですか?」
「……似ているのじゃ。彼女達の知識の探求のあり方じゃが、それが過去に見たある者の姿に近く感じるのじゃ。
細かいところで見れば明確に異なっているのじゃが、全体を通して見ると限りなく近い。一歩間違えれば重なってしまうぐらいには近いあり方じゃ。
それに加えて今回の人形の件じゃ。魂に類するもの魔法は総じて闇の魔術に関するものが多い。
彼女達がそのような魔術に手を染めているとすれば、あの者と同じようになってしまう可能性とてありえる」 「少なくともリンに関しては、心配はないかと。サンクとは生徒達の言葉を借りるなら熟年夫婦、ですし。
まね妖怪の授業で2人に対しとった姿は、お互いが炎に焼かれる姿。
それに対してリンは『教訓とか決意、喪失感という類のもの』と言っていました。過去に2人を深く結びつけるような何かが起こったとみてまず間違い無いですし。」
「その点でアリスはより大きな問題と入れるじゃろうな。付け加えるならば、彼女は相手、特に我々大人と話す際には必ずといっていいほど視線を合わせんのじゃよ」
「それは……まさか開心術を警戒しているということですか?」
「恐らくの。閉心術が使えぬ者にとって相手の開心術を回避するのに最大の効果を発揮するのが視線を合わせないことじゃ。彼女は大人と対面するときは視線を一度たりとも合わせようとわせん。少なくてもわしの知る限りではの。それはつまり、視線を合わせることで心を覗かれることを恐れているとも解釈できる。」
「ちょっと待ってください、リンやサンクチュアリーにはそういった素振りは見られませんがそれはどう解釈するのですか?」
「彼らは普通の十代ではない。もちろん、探偵をやっている、という意味ではないぞ。昨年、彼らはこう言っていた。
『私達には生まれる前の記憶があります。と言ってもこの言葉を額面どおり受け取らないでくださいね、嘘はついていませんがイコール真実ではないですから。』
その時わしは彼らに開心術を用いたんじゃが、なにも読み取れなかった。心に押し入ることは出来るのに、まるで野生動物に開心術をかけたような感じじゃった。」