避難誘導

グズグズしている暇はない。最大速度で付近の幹線道路に向かう。
敵のロケット弾攻撃を防ぎつつ、侵入した敵に攻撃しつつ被害が出た道路を直す。正直私一人では手が回っていないが、やらないよかましである。

横浜駅付近に来た。
キャビネットは横浜を起点に東京都心方面と八王子方面に分岐している。ここを守らないと市民の脱出に支障が出る。

横浜付近は片側5線の線路になっており、1つがやられても他の線路に迂回するように設計されている。
今回も事前の摘発により想像ほど被害は出ていないがそれでも幾つかに損傷が見られる。

目の前で破壊工作をやっている方にはスヤァしてもらいつつ、修復する。

とても一人では捌き切れないので焼け石に水とはおもいつつ人形たちを呼び出す。ロケット弾と線路の補修位なら人形に任せられる。

「有希、尚也、かなちゃん。状況は見ての通り。ロケット弾への対処と線路の修復を手伝って。」
「わかった」
「任せろ」
「了解。ああっ!このロケット弾の3/4の量でこの横浜を機能不全にできるのにっ!もったいない・・・。」
「かなちゃん、発言が物騒」
「ごめんごめん」

どっとキャビネットが押し寄せる。桜木町付近からの避難客のようだ。事前の手配が功を奏したようでなによりだ。
その上空をひらひらとあっちこっちに飛び回りつつロケット弾を跳ね返しつつ、修復しつつ、見かけた工作員を眠らせつつしていると15:45になった。

「凛、そろそろ高浜町の方のもう1つの避難シェルターへの入り口に向かわないと。」
「そうだったわね、急いでリュックサックの中に入って!」
「はーい」

大急ぎで人形達をしまいつつ、保険で幾つかの結界を張り、箒を走らせて避難シェルター入り口へと向かう。

高浜町のシェルター入り口上空に着くと既に敵の手に落ちていた。

「間に合わなかったか。みんな、一斉突撃をかけるよ!」
「「了解!」」

一気に急降下爆撃を行う。もちろん透明のままでだ。

爆撃しては上空に飛び上がりというのを繰り返しつつ、追加の敵が来ないように認識障害結界を張る。
本当は通信妨害もしたかったが、万が一まだ逃げ遅れた市民がいた場合まずいのでかけるわけにはいかない。

120人ほどとかなりの大人数だったが、透明になりつつ急降下爆撃をした事で奇襲に成功したこと、また幸いなことに敵の魔法師が数人程度だった事もありほとんどを眠らせる事に成功した。

目に見えてる連中は全員眠らせたが、避難シェルターに入っていった敵も20人前後いたようだ。
認識障害結界を張り直し、通路入り口に鳴子の魔法をかけ、通路に入っていった敵を追いかけた。

避難通路は合流地点まででも結構長い。また陸上戦力に追われる事を想定して直線ではないため、地上を歩くより長い距離を歩く必要がある。

(箒はこの狭さでは私には無理ね。これなら地上から先回りした方が、良かった気がする)

そうは言っても今更だ。前方から戦闘の音がする。これなら前後から挟み撃ちに出来そうだ。もちろん透明魔法なんてきってある。

「みんな、一気にやるよ!」
「分かってる!」

敵が私に気がついて私より早く銃の引き金を引くが、直後私の魔法で失神。飛んだ球はカナちゃんが爆破して解体した。
向こうで戦っている一高の生徒が見えた。人数は3人。20人を相手にするには少し少なすぎる。

(そもそも私は個人戦なんて苦手なんだから、わざわざ苦手で面倒な事する必要はないじゃない。)

面倒になって(キレたとも言う)人形達に指示を出そうとした時、有希が
「範囲攻撃だろ、分かってる、早くしろ」

と言い出した。私の人形が優秀すぎる。
というわけで防御を人形に任せ、攻撃に専念する。

1つ目の魔法は冷却魔法。敵魔法師の魔法を領域干渉で無効にしつつ、味方に魔法行使を知らせ、敵の体温を急速に奪い行動を鈍くする。

2つ目の魔法は重力制御魔法、敵が感じる重力を増大させる。

3つ目の魔法は遮光の結界。敵を覆うようにかける。同時に敵は周囲が暗くなったように感じる。

4つ目の魔法は閃光魔法、ある種の催眠術だ。遮光の結界を張ったのは術者への被害を防ぐためでもあるが、催眠状態になりやすくする効果もある。

それでも何人かは閃光を免れたらしいがこれなら対処は容易だ。私と人形達の失神魔法と一高の生徒が放った攻撃ですぐに鎮圧された。時計を見ると15:55だった。

「失礼ですが、第一高校の中条あずさ生徒会長ですか?」
「え!?あ、はい、中条です。あなたは確か・・・」
「はい、先ほど会場で質問をしていた菊水凛と申します。
でですね、高浜町から伸びる地下通路は侵入者避けと認識障害結界が貼ってあるのでこれ以上の侵入者は来ないと思うので、とりあえずそこは安心してください。
万が一来た場合は鳴子の音が響きわたる魔法をかけているので先手を取られる事もありません。
ただし、地上は敵の戦車が走っており、この避難通路は一部その荷重に耐えられない可能性があるので予断を許さない状況です。
そこで私が最前線に立って、皆様が安全に避難できるよう、シェルターまで行こうと思うのですが構いませんか?」
「は、はい!ご迷惑でなければ!」
「では。ええっと確か服部刑部元生徒会副会長と第一高校剣術部の桐原さんとレンジゼロの十三束くん、でしたっけ、間違っていないといいんですが。」
「間違っていませんが、なんで私たちの名前を・・・そんな場合ではないですね、なんでしょう?」
「私が一番前にいくので、服部さんは後ろをお願いできますか?私とあなたでは魔法が干渉するかもしれないですし。」
「わかりました。それでは先を急ぎましょう。」
「では生徒会長さん?」
「はい。」

後ろの避難する人へのアナウンスを任せ、歩き出した。

人形たちは先に行かせてある。視覚共有しつつ先に進む。
人形たちが開けた空間に出た。避難シェルターの入り口である。右手には階段がある。これは駅から直接シェルター入り口に行ける階段だ。
人形たちには階段を上がって外を警戒するように伝える。

人形たちに遅れること5分、16:03、ようやく避難シェルター入り口が見えた。しかし・・・。

「中条あずさ生徒会長!走ってドアを開けてもらうよう交渉を!地上を戦車が走っていてこっちに向かってるから、崩落の危険があります!私の魔法で時間稼ぎするから早く!プロテゴ・マキシマ!最大限の守護を!」

視覚共有で人形の目を借りていた私は、地上の戦車をいち早く察知し警告を発し、同時に杖で魔法をかけた。
落ち着いてCADを取り出し、加重軽減と硬化魔法をかける。近くで対物障壁が展開されようとした時真上を戦車が通った。

戦車と言っても直立機動戦車、尋常ではない重量だ。しかも1台や2台ではない。
ドアを無事に開けてもらえたらしく一斉に逃げ込むが、途中で魔法が耐えきれず、天井が崩れ出す。

(ちっ、加重軽減してもこの速さとかどんだけ重いんだ)

そこに新たな魔法が発動する。落下し砕けた天井がアーチ状になる。

(この魔法は確か物体をポリゴンとして認識することで魔法をかけるものだったような。でもそれでは数秒しか持たない!)

「アグアメンティ!水よ!ニブルヘイム!叫喚地獄!」

崩れた瓦礫を水に浸し、直ちに凍結させる。一体となり認識しやすくなったそれに、硬化魔法を展開する。

なんとか全員が逃げ込めたところで、追加で戦車が通った事により天井が今度こそ崩落する。天井を爆破して吹き飛ばしながら箒で飛び上がり難を逃れる。
P2P通信で中条あずさ生徒会長に連絡を取るとどうやら怪我人一人いないようだ。
地上にいた警官へ、シェルターの現状を伝えたところで時刻を確認すると16:07だった。
人形たちと合流し高浜町へ向かう。

そうしようとした時再び直立機動戦車が向かってくる。どうもまた戻ってきたらしい。

(うーん、どうしよう)

というのも、一高の他のメンバーが響子ちゃんと一緒へここに向かっていて、もうすぐつきそうなのだ。

かといって自分で、ここで戦う時間はない。早く他の場所の応援に行かなければならない。

だから精神干渉系の魔法を使う事にした。ただし短時間で大規模に精神干渉系魔法を使うので大きな意識改変はできない。だから付近の戦車を一高の地上組に、けしかけることにした。

そして箒を取り出し高浜町へ今度こそ向かった。

(まあ、響子ちゃんに深雪ちゃんもいるしどうとでもなるでしょ。)