第二の課題

「リン先輩!早く起きてください!」
「あと30分だけ・・・」
「何寝ぼけてるんですか、試合まであと15分ですよ!」
「15分・・・ん?15分!?まずい!」
「だからさっきからそう言ってるじゃないですか。」
「あれ、コリンだ。ううっ、面目無い。とにかく急がないと。」
「大丈夫、着るものは全部サンクが用意して受け取ってます。はい。」
「ありがとう・・・着替えてくる。コリンも早く観客席に。ハリーの応援に行くんでしょ?」
「はい。では本当に急いで下さいね。」

まずいまずい。あと15分で試合とは。
しっかし、聖一のやつ、着せたい服ってこれか。いやさ、確かに作戦通りなら水に濡れることはないからいいんだけどさ。

会場に着いた時には試合まであと5分になっていた。
どうもハリーが来てない・・・と思ったら来た。

試合開始の合図がでる。ハリー以外は我先にと水に潜っていく。ハリーは何やらもたついたあと水に潜っていった。

次第に会場のざわめきが大きくなる。私が立ったまま何もしないからだろう。審査員のルード・バクマンが話しかけてきた。

「何もしないと棄権扱いになるが、構わないのかね?」
「バクマンさん、これも作戦の内です。勝手に棄権にしないでいただけますか?まあ、あと2分くらいですかね。」
「それならいいが。健闘を祈るよ。」
さすがに審査員にも疑問を持たれているようだ。そろそろ構わないだろう。

「ヌーベス スパラグント!(Nubes spargunt) 雲よ展開せよ!インフェルノ!ー氷炎地獄!」

雲が展開しあたりに冷気が漂う。水面に熱気と冷気の境界線が敷かれ、水は冷やされ、空気は熱される。徐々に水が氷に変わっていく。湖の一部を凍らせた。

「セクタムセンプラ!切り裂け!、ウィンガーディアムレビオーサ!浮遊せよ!」

できた氷を切り出し、湖面から出す。

「アグアメンティ!水よ!ニブルヘイム!叫寒地獄!」

切り出した氷に吹雪が襲う。空気中の水分はおろか、窒素すら個体となり氷柱を大きく成長させる。
魔法により収束され出現した水も凍結の例外ではない。湖の最も深いところは水深50メートルになる。なのでそこまでの高さに成長させる。

「ウィンガーディアムレビオーサ!浮遊せよ!フェルクシィバス!物体操作!」

概ね出来上がったところで4本の氷柱を組み合わせ中空の円柱型氷柱を作る。その前の魔法は継続中なので直ちにそれらは一体化する。

「アクシオ ドールズ!人形たちよ来い!スィーブサリエンド(Sive saliendo)!跳躍せよ!」

人形たちを呼び出しつつ、跳躍して氷柱の上に飛び乗る。
ドールズに浮遊魔法をかけてもらい氷柱ごと移動する。自らを動かすのは浮遊魔法の術者からの相対距離によって物体を動かすという性質上出来ないのでこういう形をとる。

「クワーリル!捜索せよ!」

高位の魔法師になればこの魔法による捜索を妨害したり偽の情報を渡すことができる。またある程度範囲を絞れてないと捜索できない。例えるならサーバーへのリクエストと応答、それのタイムアウト時間みたいなものだろうか。
今回は誰を探すかも、だいたいどの辺りかも分かっているので支障はない。だから
(へぇ、あそこか。氷柱を高めにしておいて正解だったわね)

ほぼ湖の最深部にいることも分かった。

そのまま上空に飛んでいき、氷柱をわずかに水に沈める。そして氷で蓋をしてそのまま一気に沈める。

湖底に氷柱が達したところで硬化魔法をかけ、氷柱を湖底に固定し、聖一がいるところまで氷の廊下を作る。
本来精密な制御と高い魔法力が必要だが今回は手抜きする。
つまり聖一の手前まで氷柱を伸ばし、それをくりぬく。こうすれば高い制御力はさほど必要ない。

作った氷の廊下を今度こそ高い制御力で伸ばし、旱魃の呪文で、水抜きしたところで聖一が目覚めた。

「聖一?大丈夫?体調に何か問題はない?」
「大丈夫だ。それよりその服を着てくれてよかった。」
「言えば何時でも着てあげるのに。今度からは不意打ちなしでちゃんと頼んでよね。」
「はいはい、分かった。それよりも今は。」
「そうだったわね。アグアメンティ!水よ!ニブルヘイム!叫寒地獄!ボンバーダー!爆発せよ!」

私達の身長より少し高いところに氷壁を作り、それより上の氷柱を爆発して切り離す。そして硬化魔法を解いて浮力により上昇する。
水面に浮けばあとは簡単だ。氷柱の一部を爆破して空気孔を作り(酸欠防止)人形たちに命じて岸辺まで運ばせるだけだ。
かかった時間は、凍結に他の選手が巻き込まれないようにするための待ち時間8分と氷柱生成にかかった時間5分、移動にかかった時間3分、そこから救出まで4分。計20分での救出に成功した。
そう、このまま何もなければ。
水面から救出要請の魔法が飛び出す。慌てて水中を探るとアリスが大イカに襲撃されている。

「聖一、手伝って!」
「言われなくても。フリジアチーユス!耐寒せよ !ノゥトアクア・プレスィリア!水圧よ軽くなれ !ソレバァト・シルエミニ!耐圧せよ!インパーピアス!防水防火!リン、飛び込め!」
「うん。」

アリスは人魚に変身する呪文をかけているようだが、そんなものは必要ない。大雑把な加速は聖一が遠隔でやってくれるし、細かな移動は作用反作用の法則の応用で十分だ。
かける魔法は決まっている。精神干渉系魔法で精神そのものを凍りつかせる。その名は
「コキュートス!精神停止!」

アリスを襲おうとしていた大イカの行動が止まる。と言っても生存に必要な活動、例えばアポトーシスやオートファジー、血流循環は正常に動作する。
とりあえずアリスの元に向かい、私にかけられてる泡頭呪文の空気をアリスの耳にくっつけ、アリスに伝える。

「アリス、残り時間は35分、大イカは一時的に精神を凍結しているから襲うことはない、大イカの事後処理は私に任せてさっさと行きなさい!」
「リンはどうしてここに?」
「競技を終えて岸辺に戻る最中で救出要請の呪文を見たからよ。」
「え?もう終わったの?」
「アリス、なにも水中が舞台だからって水に潜る必要はないのよ。いいから早く行きなさい。」
「・・・分かったわ。」

そう言ってアリスは去っていった。
すでにフラーは救護班が救出している。

(大イカの処置をどうするにせよ、とりあえず水面に出ましょう。どうせこの場面は会場に映し出されているのだし)

とりあえず水面に出るのだった。

岸辺に辿り着いた私はいきなり審査員に囲まれた。

「リン、水中で何があったか聞かせてくれんかのう?」
「ダンブルドア校長、競技を終えた選手にのっけから質問攻めですか、審査員としてあるまじき行為ですね。今すぐ審査員を辞退されては?」
「リン、そう言わず説明してくれないか?審査に必要なんだ。」
「へぇ?審査に必要、ね。リアルタイムで映像を見ていて、それでなお不足とは審査方法に問題があるんじゃない?
もともとアリスを大イカから救った件については話すつもりだったけど、今の話を聞いて気が変わったわ。
ああ、そうそう。あの大イカ、何者かに操作されていた可能性があるから、せいぜい気をつけることね。
狙いは言うまでもなくアリス。ダンブルドア校長には、アリスを生徒として十分に保護する事を期待しています。では救護所に行きますので。」
「待ちなさいリン。」
「あ、そうそう、サンクを私の断りもなく競技に利用した件については後ほど詳しくご説明いただけるものと思っています。」

人助けをしたのにあれこれ言われる覚えはない。今はアリスやハリーを応援したい。そう思って医務室という安全地帯に逃げ込んだ。

どうやらアリスにやたらと魔物が襲いかかっている。大イカだけでは飽きたらなかったのだろうか。
しかしアリスを妨害するには不十分のようだ。この様子なら3位は確定だろう。
ハリーはもう人質のところについたようだ。

そして20分後。

「ところでなんでハリーはなんで人質のところにずっといるのかなぁ?」

そう。ずっと人質のところを離れないのだ。そうしたら救護所で治療を終えた(実質検査だけだが)聖一が解説してくれた。

「ハリーは正義感が強いから、友達であるハーマイオニーやチョウ、同じ選手の妹のガブリエルを見捨てられないのだろうよ。
あれはあれで大事な価値観だろう。工藤新一に似ている面もあるな。」
「ああ、言われてみれば。工藤の方が頭は切れるけど。」

そうこう話している内にアリスがネビルを救出、すぐにチョウもセドリックに救出された。
しかし、まだハリーは動かない。

アリスとセドリック、ネビル、チョウが岸辺に戻ってきた。流石にアリスに詰め寄るような真似は審査員一同しなかったようだ。

アリス達が救護所から出て私達と同じところに来た時、クラムがハーマイオニーを救出した。しかしハリーはまだ動かない。

ハーマイオニーが私達のところに来た時アリスが尋ねた。

「私ハリーにさっさと水面へ上がるように言ったのに、なんでまだ上がらないのかしら?どこか怪我でも?」
「違うわよ、ね?サンク。?」

私にしたのと同じ説明を聖一がする。

「まったくもう、ハリーったら。」
「まさかハリー、あの歌を真面目に捉えてるんじゃ?」
「いやいや、流石にそんな事は・・・あるのか?」
「あり得ると思うわ。」
「あやや・・・。ネビル、ハリーは水へ入る前に、何か緑色の海藻状の物を食べていた。その結果あの水中に適した体を得ている。何を使ったか分かる?」
「多分鰓昆布だね。あれだけで、泡頭呪文、耐圧呪文、水中での移動速度上昇、耐寒呪文の役目を果たしてくれる。」
「効果時間は?」
「1時間。だからそろそろ不味いはず。」
「あ、ハリーが動き出した!ロンとフラーの妹のガブリエルも一緒に水面を目指してる!」
「でも間に合うかしら?」
「それについては大丈夫じゃないかな?浮力上昇呪文の練習をしていたようだし。」

何とかハリーは水面に上がれたようだ。ガブリエルは泳ぎが苦手らしく、ロンが手伝ってる。

ハリーも治療を終え、結果発表となった。