行動は早めに

一応の情報収集が終わったので響子ちゃんと別れ、山内埠頭へと車を走らせる。

埠頭近くに来た時、連絡が入った。どうやら黒羽家の捜索隊と内閣府直属魔法師部隊予備隊は指揮官が協力して動いていたらしい。
コンペ会場を出る時に送ったデータのお陰で、追加で120人検挙出来たらしく、総計250人ほど。地元警察はてんやわんやのようだ。

検問をやっているようだったので車を止めると、稲城警部補がいた。

「こんにちは。なんか巻き込んでしまってすみませんね。」
「いえいえ、事情が事情ですから。」
「検問の成果は?」
「不審車両2台を検挙しましたが、関係があるのは1台だけ、しかも追加情報はなしです。」
「まあ、これからが勝負でしょう。特にトラックの荷台に武器や戦闘員を匿っていないか、確認をお願いしますね。」
「リン先生はどちらに?」
「戦場の下見に。あ、昼ごはんどうしよう、近くになんか店ありましたっけ?」
「近くに美味しいラーメン屋がありますが?」
「場所をおしえてくれる?」

場所をきいてラーメン屋に向かう。飯を食べてる間くらい私抜きでも持つだろう。

店に着くと聖一と鉢合わせした。

「聖一?今朝ぶり。どの辺にいたの?」
「付近の学校への警戒の呼びかけと、中華街付近を探ってた。」
「成果は?」
「だめ。周公瑾が陳祥山と昨夜会っていたというのと、その後周公瑾が中華街の守りを固めたらしい事は分かったが、それ以上は。」
「うーん、まあ仕方ない。話を変えよう。敵の第一手はなんだろう?」
「公共交通機関の爆破とか港湾管制塔や警察に自爆攻撃とかじゃないかな?」
「どれも難易度が高いと思うんだけど。」
「内通者がいれば話は別さ。」
「なるほど。じゃあ「状況は常に最悪を想定してさらに2倍しろ」の法則に従って全部爆破される方向で考えると、どう動くべきかしら?」
「検問を強行突破したり、あからさまに検問を避ける車は予備隊の連中に任せるとして、俺は検問を手伝おうと思う。」
「了解。しかし250人程度とは言え、魔法協会関東支部や、旧神奈川県庁のある住吉町付近に潜伏していたゲリラを検挙できたのは大きかったわね。   地理的にみて激戦区となるのはあのへんだろうし。」
「ところでお前は魔法協会支部の防衛には加わらないのか?」
「この高島町一帯が落ち着いたらね。」
「しかし敵の精鋭部隊が雑魚と戦うであろう義勇軍のさらに後ろに回る可能性はないのか?」
「だからさっさとこのへんの混乱を収拾させるんじゃない。」
「で、凛はどうするんだ?」
「しばらく山内埠頭から横浜駅付近を調べた後、一旦会場に戻って一高の発表を見て、事件発生次第また横浜駅付近に飛んで戻ろうかと」
「なんで飛ぶ?」
「車は使い物にならないだろうから。」
「疲れないか?」
「だからね、今日は久々に箒を使おうと思うの。」
「持ってきてたのか。あ、そういや黒羽への連絡忘れてないだろうな?」
「あ、やばい。」
「おいおい」

ラーメンを食べ終わり、ふたたび聖一と別れ、車を走らせた。黒羽には桜木町駅から野毛山付近の警戒をお願いした。

敵の第一波が魔法協会支部であることは疑いないが、魔法師の誘拐のために論文コンペは必ずターゲットとなる。
そして桜木町駅の避難シェルターを目指すことを想定するなら必ず高島町付近で戦闘が起きる、そう踏んでいた。 高島町付近が敵にとって重要な理由はもうひとつある。
敵はおそらく独立魔装大隊が論文コンペ会場付近にいることを知らない。つまり国防軍への警戒は鶴見と藤沢のみとなる。
藤沢は横浜からはやや遠いが鶴見は横浜の目と鼻の先だ。この部隊の足止めのためにはこの高島町付近に兵力を配置しなければならない。 ところが黒羽の調べではゲリラはほぼ見つけられなかった。魔法協会支部の周辺を優先した結果でもあるが・・・。
もちろんそれがわかっているから千葉警部もこの付近に検問を張っているのだ。

現在12:30。第一高校の発表が終了するまであと3時間。

山内埠頭から横浜駅に向かって走っていた凛だが、端末を通してではなく体の感覚で、ここではないと悟っていた。

「さすがに運河を挟んでここではないか。まあこっちとしてもやりやすくて助かるのだけれど。」

そのまま横浜駅から内陸側を通って高島町へ行くことにした。

かつてのJR東海道線平沼橋駅付近までは違和感を覚えなかったが、旧京浜急行戸部駅近くまで来たところで違和感を覚えた。

(なんかアジア系の外国人が多い・・・?)

戸部には警察署がある。そこの知り合いを頼ることにした。

「すみません、渡瀬さんはいますか?」
「ついさっきお手洗いに行ってたような、あ、戻ってきた。渡瀬さん、お客さんですよ。」
「お客さん?あれ!?リン先生。その節はお世話になりまして。」
「いえいえ。では時間がないので早速。現状についてどう考えていますか?」
「現状・・・といいますと?なにやら魔法犯罪対策課が動いているのは知っています。私も午前中は生活安全課と一緒に外へ出ていましたし。」
「その時なにか違和感は感じませんでしたか?」
「そういえば普段よりアジア系の外国人が多かったような・・・。」
「やはりですか。さて。悪いニュースとさらに悪いニュース、どちらが先に聴きたいですか?」
「そういうのは普通いいニュースと並べるんじゃないですかね。ではさらに悪い方から。」
「横浜と京都に熱核攻撃の危機が迫っています。合わせて魔法協会支部と全国高校生魔法学論文コンペティション会場が敵の標的となっています。」
「なんですって!?・・・ああ、どうりで魔法犯罪対策課が殺気立ってると思った。ここに来た警部さんの怖いこと怖いこと。それであまり聞きたくないのですが悪いニュースは?」
「この戸部警察署から高島町にかけて敵の工作員、ようはゲリラが発起し、交通封鎖や魔法師の誘拐を計画しています。当然市民も巻き添えを喰らう可能性があります。」
「なぜここが・・・ああ、なるほど。国防軍の鶴見駐留部隊の足止めと論文コンペティション会場を襲撃するからですね。桜木町駅へ伸びる避難通路付近も危ない、と。」
「というわけでお願いしますね。」
「一体なにをですか!?」
「事前摘発と市民の避難誘導です。私は避難通路の安全確保をしないといけません。市民は野毛山になるべく誘導してください、状況次第ですが。」
「わかりました。先生もお気をつけて。」