暴走か?襲撃か?

ギングズクロス駅をホグワーツ特急が出発して30分、認識障害魔法がかけられたコンパートメントの中ではアリスがグリム童話の朗読をしていた。
アリスが生み出した上海、蓬莱、露西亜と私が生み出した有希、尚也は多少はしゃいだりしながらも読み聞かせを聞いている。
かなちゃんは興味がないらしく有機官能基分析の実験をおっぱじめていた。
聖一は推理小説の読書、私はプログラミングをしていた。

ホグワーツ到着まであと一時間となった。認識障害魔法はしっかり効いているようでのんびり過ごせている。
簡単なカーテンの仕切りをたてて3人とも着替え終えたところで列車が減速を始めた。

「ねえリン、減速してるように感じるのは気のせいかな?」
「私もアリスの言う通り、減速してると思うけど聖一、どう思う?」
「うーん、線路に障害物があると連絡を受けたか、ハイジャックされたかじゃないかな。」
「リン、気温が低下しているよ、気温変化と時間の関係グラフが反比例のグラフに一致する。」
「ついでに魔力が流れ出している。」
「気温低下に魔力流失?聖一、吸魂鬼に違いない、守護霊の呪文を。」

次々と私の人形達が報告する。うん、とっても優秀だね。

「かなちゃん、有希、尚也ありがと。」

『エクスペクト・パトローナム! ー守護霊よ来い!』

私が人形達にありがとうを言うと同時に聖一が守護霊の呪文を唱える。しかし有体の守護霊には程遠く、霞程度しか出ない。吸魂鬼の絶対数が多すぎるようだ。
窓ガラスが凍りはじめ、吐く息が白くなるほど気温が下がる。ガラガラという音も聞こえ、通路へのドアのガラス越しに黒い影が見える。

「ちくしょう、私も守護霊の呪文が使えたらよかったのに・・・。有希、尚也、かなちゃん、上海、露西亜、蓬莱、いつでも逃げられるように準備を!」

その時、隣のコンパートメントから呻き声に似た悲鳴が聞こえた。

「今のハリーじゃ?」
「そうね、嫌な予感がする。」
「リン、そういう事は思っても言っちゃ・・・」

「ここにシリウス・ブラックを匿っている者はいない!ここから去れ!」

突如として部屋の中から聞こえた声に驚くも、目の前の吸魂鬼は気にも留めていないのか再びガラガラと音を発している。だが次の瞬間、部屋の中から銀白色の動物が飛び出した。そして吸魂鬼は銀白色の動物に追い出されるように、この場から離れていった。
吸魂鬼がいなくなると同時に冷たい空間となっていた場が元通りの暖かい空間へと戻り、凍りついていたガラスも元通りとなっていた。

「これが守護霊の呪文の真の力か・・・。」
「聖一・・・。やはり学ばずにいるわけにはいかなそうね。アリスもそう思わない?」
「そうね。とりあえずハリーたちのコンパートメントに行きましょう。」

「失礼するわね、吸魂鬼が来たけど全員大丈夫・・・ではなさそうね・・・。」
「アリス!?それにリンとサンクも。」
ハーマイオニーがこの騒ぎでどうも軽いパニックになっているらしく、声が裏返ってる。
「あなたは、あなたは、闇の魔術に対する防衛術の新任教師のリーマス・ルーピン先生ですね?初めまして、サンクチュアリー・トンクスといいます。先ほどの守護霊の呪文はお見事でした。それで、ハリーの容体は?」
「あぁ心配はいらないよ。少し気を失っているだけだ。しばらくすれば目を覚ますだろう。君は守護霊の呪文を知ってるのかね?」
「霞み程度なら出せます。」
「ちょっと待った、吸魂鬼とか守護霊の呪文って何だ?サンク。」
「ロン、ええっと・・・。リン、説明任せたー。」

「うん、任された。
・・・吸魂鬼とは、一般には『口付け』と呼ばれる行為によって魂を吸い取ることができる生物で、他の生物の幸福感を糧として生存します。
現在イギリス魔法界では牢獄アズカバンの看守であり、魔法省は吸魂鬼がアズカバンにいるからこそイギリスの半数の人は枕を高くして眠れるのだと答弁していますが、ホグワーツ現校長アルバス・ダンブルドア始め反対派も多数存在します。
それで守護霊の呪文とは空間中に守護霊と呼ばれるプラスのエネルギーの塊を作り出す呪文で、吸魂鬼を追い払うことがてきます。
また、エネルギーなので作用・反作用の法則が適用されます。
使用には強い幸福感が必要です。術が使いこなせないと霞のような形で吸魂鬼を退ける程度の威力ですが、熟達すれば術者に固有の有体の守護霊を作り出せ、完全に追い払うことができます。
難易度は吸魂鬼の数と幸せな記憶の強度、心理状態、術者の技量に依存しますが、一般にOWLを超えるレベルです。
・・・な感じでいいかな?聖一。」

「ちょっと余計な話も混じったけどまあいいか。
大事なのは現在のところ吸魂鬼を退治することはできず、唯一守護霊の呪文によって追い払うことができる、ということだな。」
「二人とも、そこまで説明したら闇の魔術に対する防衛術の先生の立場がないじゃないか。だいいち作用反作用の法則との関連についてはつい4年前の研究でわかったばかりなのに。しかし霞み程度とはいえ守護霊の呪文を使えるとは流石、というべきだろうね。」
「サンク、凄いわね・・・じゃなくて、なんでアズカバンの看守たる吸魂鬼がこんなところにいるのよ?」
「ハーマイオニー、そんなの考えなくてもわかるじゃない。この数ヶ月、魔法界のみならずマグルの世界までニュースを騒がせてたのは誰?」
「アリス、それってつまり・・・」
「そうだ。奴らはシリウス・ブラックを追って捜査網をどんどん広げている。今回汽車を止めたのもその一環なのだろうが、いくらなんでも非常識すぎる。私は今から運転手のところに行って話を聞いてくる。」

そう言ってルーピン先生は立ち上がり、部屋を出る前に、全員にチョコレートを渡した。

「食べるといい。気分が落ち着くよ。その子にも目が覚めたら食べさせてあげるといい。」

チョコレートを配り終えたルーピン先生は、そのまま汽車の先頭へと向かって進んでいった。

「それじゃ私達も戻るわ。もうすぐ到着すると思うから早めに着替えた方がいいわよ。」
「じゃあまたね。」
3人揃ってコンパートメントに戻る。

「守護霊の呪文、教師役はパチュリーに頼もうかと思ったけど、もっと身近にいたわね。」
「ルーピン先生か、落ち着いたらお願いしようか、アリス。」
「落ち着いたら?」
「私達の人形、騒ぎにならない訳がないよね?」
「なるほど、うーん、いやだなぁ。」
「おいおい、新学年始まったばかりだぞ、もうすこしポジティブに考えようぜ・・・。」
「そういえばサンク、さっきなんであの人の名前と職業が分かったの?」
「簡単なことだろ、アリス。荷物棚に荷物、名札がついていた、新しい先生といえばほぼ間違いなく闇の魔術に対する防衛術の先生。」
「さすがサンク、伊達に探偵やってないわね。」
「アリスが寝ぼけてただけだと思う。」
「リン、あのね、あなた達が探偵だからってそれを基準に・・・いや、なんでもない。」

そうこうしているうちに今度こそ本当に列車が減速し始めた。