情報収集をすると言ったな(ry

駐車場に向かい、車の前に着いたところで昨晩の千葉警部の話を思い出した。
そう、藤林響子と千葉警部が桜木町で待ち合わせている時刻が8:30だ。現在8:10。多少急ぐ必要がありそうだ。

駅まではもちろんコミューターだ。どうせ会場にもう一度戻るのだ、自分の車で行く意味はない。
そもそもコミューターの料金より自動運転対応の私用車の回送料金のほうが圧倒的に高いし。しかしほかにも理由はある。

この自動運転の発達した時代になっても、居眠り運転は厳禁である。つまり自動運転でも運転手は起きていないといけない。
何が言いたいかというと、私は眠いということだ。

(2人と接触するまで数分だけど寝ますか。)

スヤァ・・・。

駅に着くと千葉警部だけいた。まだ響子さんは来てないようだ。

「昨日ぶり・・・。いえ、早朝ぶりですね、千葉警部さん。藤林さんはまだですか?」
「もうすぐのようです。」
「そうですか。藤林さんが来たら起こしてください。」
「え?あの?」
「すぅ・・・」
「いや、すぅ、じゃなくてですね。・・・はぁ。」

10分くらい経った時、紅茶の香りがした。

「う・・・ふわぁ・・・あや?こうちゃ?ということは・・・あら、響子さん。」
「お目覚めですか?リン先生?」
「はい。・・・この紅茶、美味しいわね。」
「ありがとうございます、私が入れたんです。」
「あら、響子さんが?・・・ふーむ、それなら紅茶の淹れ方について幾つか申し上げたいことが。」
「え!?どこがまずかったのでしょうか?」
「ふふっ。冗談よ。」
「脅かさないでくださいよ、リン先生・・・」
「まあ良いじゃない。それでどう動くのかしら?達也くんと会場警備の十文字君にはもう伝えたわよ?」
「さすがリン先生、打つ手がはやい。それでは周公瑾について少し突こうかと。」
「なるほど、その周りを探れば黒羽さんと内閣府直属の魔法師部隊予備隊の方にお願いしているゲリラ摘発にも少しは役立ちそうですね。」

とりあえず響子の車に乗る。目指すは中華街、ではなくコンペ会場だ。こういう時は現地に行っても仕方ない。
現地ではどうせ聖一が動いているのだから、拠点を張って情報収集するのが得策だ。

「そういえば千葉警部から聞きましたが、私の当初の想像を超えてますね。先生は、潜伏するゲリラはどのくらいの規模とお考えですか?」
「600人から800人かと。たった今入った連絡では、すでに100人程度捕まえましたが正直動き出しの遅さと情報不足で検挙が進んでいません。」
「もう100人も?一体何時から動いてたんですか?」
「黒羽さんは1時くらいから動かれてますよ?」
「その僅かな時間で、しかもこの情報不足で、もう100人もとは・・・。流石は黒羽と言うべきでしょうか?」
「そうですね警部。しかしここからが問題です。注意力不足のおっちょこちょいなゲリラはあらかた捕まえたでしょう。ここから12時までに何処まで検挙出来るかが勝負です。」
「なぜ12時なのでしょうか?」
「敵の行動開始は論文コンペでの第一高校の発表の終了前後10分程度と予想しています。
12:00頃からは各警備隊は交代で昼食の時間になり、警備が手薄になります。我々はそこをフォローする必要があります。」
「なるほと。」
「ところで警部さんの方の配置はどうなっていますか?」
「今、港湾管制塔付近で検問を実施しています。
また、対熱核兵器魔法師部隊は3人でグループを作り所定の配置についていて、その援護に各都道府県から集めた魔法師を配備しています。
我々は、指示があるまでは各自バラバラと警戒に当たるように言ってあります。」
「警部さんはコンペ会場に着いたらどうしますか?」
「避難誘導にあたろうかと。」
「そうですか。では私はしばらく情報収集して12:00位になったらコンペ会場から桜木町駅地下シェルターへの通路に合流する別の通路出口がある高島町付近を警戒しますかね。
響子さんはとりあえずどうしますか?」
「とりあえず一応達也君と会ってそれから命令があるまで先生のお手伝いをしようかと。」
「あら、頼もしいじゃない。で、着いたわね。私の車は・・・ああ、そこの青いやつだから。」

車から飛び降りながら言う。

宣言通り情報収集をする事にする。何を調べるかというと、ゲリラの潜伏箇所と、敵の支援者のうち、横浜に居ない者の現在の所在だ。
敵が日本国内で活動するには必ず協力者が必要なはずだ。

「メアリー、open your eyes.」

常日頃の管理が行き届いたシステムの出番だ。まずは
「キーワード、潜伏場所、横浜、周公瑾。期間は一週間以内。・・・流石にこれに引っかかるとは思わないけど。」

システムが拾った情報はリストアップされ、まばたきすると見逃しそうな勢いで流れる。

「うーん、ノイズだらけだなぁ。引っかかったのも全部捕まってるようだし。あれ、1件だけ捕まってないのがあるわね、一応知らせておきますか。」

そういいながら、情報の海に潜る。すでに捕まった人物、周公瑾の周辺、そして金の流れ。いかなる活動も情報と無縁ではいられない。全ては記録される。
問題は限られた時間で情報の海から必要な情報を消える前に集められるかだ。

もちろん、フリズスキャルヴの検索履歴はリアルタイムで追っているが、真夜ちゃん以外は使っていないようだ。

本格的に潜る前に接近警報が鳴る。車の外にでると
「あら、響子ちゃん。もっと掛かるかと思ったのに。」
「先生が手回ししていたお陰で私のやる事なんて残って無いじゃないですか。」
「そういえばもう10時ね。第四高校の発表までもうすぐね。」
「そういえばそんな時間ですね。」
「じゃあ見ていきましょうか。」
「え?情報収集するんじゃ?」
「思いつく限りのキーでは検索しましたけど、思わしくないので思考の転換に。」
「そうですね。たしか4校のテーマは分子配列の並べかえによる魔法補助具の製作でしたね。」
「原始的ながら、杖作りにも使われていた技術ですからね、それなりに思い入れも少なからずあります。」

そんな事を話しながら会場に入った。ギリギリだったので後ろの方の席になってしまったが問題はない。

魔法学的に優れた特性を示すものは、合成難易度がが極めて高い高分子である事が多い。
つまり、化学的操作では合成経路が分子間相互作用からくる立体障害や反応速度などの理由で合成経路が見つかっていない、または極めて困難である事がままある。

そういった分子の合成に魔法を使用する試みは20世紀初頭からあり、実際イギリスでは杖作りに利用されていた。

今回の四校の発表は、新たな合成経路の発見と、合成に使用する魔法の現代魔法としての定式化についてであった。

実際に魔法具を作り、使用して従来との比較までやるんだから30分という短い時間でよくやるものである。
そんな事を思いながら、物理畑の響子ちゃんに化学畑の端くれとして解説を入れるのだった。

もちろんただ発表を見ていたわけではない。裏で響子ちゃんのネットワークと私のネットワークをつなげ、情報の重み付けをしていた。
当然そんなめんdな作業は自動化してあるが、多少時間がかかる。

発表が終わり駐車場に戻った私達は、統合したネットワークを使って情報収集を再開しようとしていた。

「でね、響子ちゃん。考えたんだけど、ゲリラが発起する場所はある程度予測できるのだから、
その付近全部の街路カメラを1ヶ月前から全部辿って活動が盛んなところを現場部隊に送ろうと思うの。」
「間に合いますかね、それ。」
「間に合わせるのよ。国防軍統合作戦本部のとうちのと、四葉のとあと幾つかのサーバをフル稼働させましょう。」
「統合作戦本部のって、そんなに簡単に使えますかね・・・。」
「丁寧におねがしても無駄でしょうね。」
「はぁ。なんであれを小指の先で落とせるんだろう・・・。」
「あら、交通管制システムよりは遥かに楽よ。」
「それはそれでどうなんでしょうね・・・。」

そんな事言いながらも手は動かしていたお陰で早くもサーバーの準備が整った。

「ところで街路カメラ、どこからアクセスします?」
「この30ヶ所でいいんじゃないかなと。」

そして30分後。

「暇ね。かといって負荷が高くてこれ以上は走らせられないし・・・。」
「諦めてSNSでも適当に漁りましょうか。」
「リミットまで実質あと30分ね。紅茶を飲むよりは建設的か。」

今世紀初頭とは違い、次世代HTTP通信規格や暗号化処理、復号処理のハードウェア化、メモリーの増加、文字コードの統一により、ブラウジングにストレスを感じるのは完全に過去のものになっている。
SNSもかなり高度な検索システムを持つのが当たり前になり、使い方を誤らなければSNSでもそれなりの情報が集まる。
そうは言っても民用サービス、と割り切っていた二人だが、5分後思わぬ収穫を得た。

「武器を運びだす写真?なんでそんなものが?」
「こっちは付近の居酒屋の店主の投稿でテロをやるとかほのめかしていたと。」
「それどこの居酒屋?」
「ええっとここです、山下埠頭。」
「よし!これで勝つる!走らせてるシステムの優先順位を今見つけたところ周辺の優先度が高くなるようにして、日時データを加えて絞り込んで・・・」
「やりましたね、残り時間が大幅に短縮できましたね。」
「そうね。報告によれば現在検挙数は160ほど。一気に200追加するわよ。」
「しかし運が良すぎて逆に疑ってしまいますね。」
「いえ、私の写真の方は近くの捜索隊に頼んでたった今確認が取れたから、かなり確度は高いわ。」
「あと5分、いや3分あれば事足りそうですね。」
「すでに幾つか釣れ始めてるわね。早速現地に流しますか。」

すでに11:41でリミットは近い。